この地ならではの酒造り、蔵造り

前回の稲作レポート「唐傘松に見守られた棚田」で通潤酒造が使っている熊本県の酒米「華錦」栽培農家である山下さんをご紹介しましたが、今回の通潤酒造到着後、最初にお話を伺ったのは実は蔵では「製造部長」と呼ばれている藤川杜氏でした。

藤川さんは杜氏として20年以上通潤酒造の味を守り続けておられます。地元出身で杜氏集団に属して修行をするのではなく、通潤酒造で蔵人として先輩杜氏のやる事を見て盗んで技術を手に入れてきたそうです。ご自身の中に基準となる「仕込み配合」というのを持っていて、基本的にはそれを変えずに各年の状況や環境に応じて細かい調整をしながら飲んでくれている人が思う「通潤酒造の味」に毎年近づけることが一番大変な杜氏の役目と仰っていました。

「仕込み配合」というのは仕込みの時の蒸米の量や酒母の量、麹の量や具合、米の吸水量、汲水の量などなど色々な数値からなる「仕込みの設計図」の様なものだそうです。
通潤酒造は熊本の地酒であることを大切にしていることから、人も米も水も地元調達が基本ですが、酵母も「くまもと酵母」一筋ということでした。「くまもと酵母」は「協会9号酵母」と呼ばれて日本醸造協会から配布され吟醸酒向けとして有名な酵母と同じなのではと私は疑問に思っていました。「協会9号酵母」と呼ばずに、あえて「くまもと酵母」と呼んでいるからには違いがあると考えるのが普通ですが、吟醸酒向けのとても優良な酵母が熊本産としてあるのにそれを使わない理由を今回杜氏に伺いました。色々と細かい違いはある様ですが簡潔に言ってしまうと「強さ」が違うというお話でした。そして地元の味を守る意味合いでも「くまもと酵母」を使い続けておられるのだなと感じました。

もう一つ今回、杜氏さんに伺いたかったのが、生酛や山廃という造りをやらない事の理由です。
岡酒商店としては「自然派純米酒」を応援していますが、その要素として、原料米の栽培方法が有機栽培や自然栽培であること=無農薬、無化学肥料・無肥料だけではなく、お酒の造りにおいても科学的進歩によって手に入れた人工的なものの添加が少ないこと、地域の個性が活かされることがより良いと考えています。具体的には醸造用乳酸の無添加=生酛や山廃など、酵母無添加=蔵付き酵母といったことです。農薬や化学肥料とは異なり、醸造用乳酸や培養酵母を使うことは体に影響があるということではありません。ただこれらを使うことで、蔵の個性・地域の個性が失われ、どこで作っても同じということになってしまう事を懸念しています。昔は地域の気候や風土に合わせた酒造りが行われていたはずであり、それに近づけることが地域の個性と存在価値につながると考えています。
そういう考えがあったので、杜氏に作り手として生酛や山廃という造りをやらない理由を伺いたかったのです。
「ここは山の中とはいえ、熊本というところは基本的に暖かいのです。そのため米は溶けやすく、発酵は進みやすい。杜氏として造りにおける安全性を考えると、速醸が良いと考えています」
藤川杜氏の回答は、まさに地域の環境から導き出したものでした。また、速醸でも温度によって何種類か調整があるということでした。「この地に合った造りをされているんだな」と理解しました。

ところで、現在通潤酒造は工事が真っ盛りです。熊本地震によって崩れた所の修繕を行うにあたり、ただ直すのではなく「新しいコンセプトで作り変える」という考えで取り組まれています。
造りの作業場としては、昔と比べて醸造量が減っている事もあり作業効率を上げるため、室(むろ)を基準にコンパクトに作業場をまとめ、動線を整理されたということでした。新しい機械や設備の導入は行わず、昔ながらの作業は継続する方針で、細かいところを含めると来年で完成するというお話でした。

午後から山下社長にお時間をいただいて、これから目指していかれる方向性についてお話を伺いました。

今回の改修で作業場をコンパクトにすることにより、蔵としてはスペースに余裕が生まれます。大きな被害を受けた寛政四年(1792年)から残る建物も作業場としては使わなくなります。そこを中心に周囲の庭も含めて改修を行い、優雅な試飲スペースを設ける予定とのことでした。日本酒のこと、地域のことを知っていただいて、かつ美味しく通潤酒造のお酒を味わっていただくスペースです。まだ改修中ですが、中に入れていただくと、立派な梁がむき出しで古い日本建築の良さが感じられながら、とても洗練された贅沢な空間になる感じがしました。いまから完成が待ち遠しいです。山下社長はこう言われていました。

「今回の改装を機に『観光蔵』にしたいんですよ。ただ社会見学や工場見学的なものではなくて、エンターテイメントな観光ができる蔵に。お金をいただくことにはなりますが、ゆっくり楽しんでいただける場所にしたいと思っています」

上段)完成イメージ  下段)現在の状態

山下社長は、神戸・灘の大手蔵を含めて色々なところの観光客用設備を見て回られた上で、そのどこにも無い形を目指しておられます。これまで通りの売店も残しますが、新しい寛政蔵や西郷隆盛が泊まった母屋も活用して、通潤酒造ならではの体験を提供したいというお考えだと感じました。今後、外国人観光客のニーズも細分化されていき、山都町へも大勢を招く日が来ることを期待されています。そういえば、愛子さんに連れて行っていただいた地元の美味しい熊本ラーメンのお店にも白人系のファミリーが来ていました。少しずつ時代は進んでいるのですね。

最後に山下社長からいただいたありがたいお話をさせてください。
「(名刺のロゴを見ながら)リタリンク(注:岡酒商店の運営会社) は『利他』が元の様だけど、酒の徳利と掛けたの?」
「いえ、それは考えていなかったですけど・・・」
「徳利(とっくり)って、『利他の徳』という言葉が語源という説もあるんだよね」
なんと! 我が社の名前は無意識にお酒と繋がっていたとは。これはネタとして使わせていただきます。

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