唐傘松に見守られた棚田

「すみません。華錦は思っていたよりも早くてもう稲刈りは終わっています」
「それでも構いません。華錦栽培農家の方のお話を聞かせてください」

そう通潤酒造さんへお願いして、今回の訪問が実現しました。昨年12月に初めて熊本県上益城郡山都町を訪れた時は、当然棚田の稲はすべて刈り取られていましたが、それでも棚田の曲線が美しく「次は稲穂が黄金色に輝いているときに来るぞ!」と心に誓いました。しかし、痛恨のミス! 昨年のレイホウの稲刈り時期を想定していたので、通潤酒造さんにご相談した時にはもう稲刈りには間に合わなかったのです。それでも「平家伝説」で使われている熊本県の酒米・華錦の有機栽培についてお話を伺いたいということと、造り直前の杜氏と社長にお時間をいただけるということで9月19日に熊本県上益城郡山都町へ伺いました。
前回は、熊本交通センターからバスで山都町へ行ったのですが、今回は時間を柔軟に使いたくて熊本駅からカーシェアリングで車を借りて山都町へ行きました。神戸からの夜行バスで熊本駅に8:45に着いて、すぐの出発でしたが思ったほど体は辛くなく、順調にスタートしました。

     左)熊本駅、中)夜行バス、右)カーシェア

車が山道に入り、しばらくすると山都町に入ります。この辺りから棚田が増えてくるのですが、カーブも増えてきて中々景色を見る余裕がなくてとても残念。それでも時折、美しい稲穂が見え、ひとりで「うぉー」と感嘆の声をあげていました。
美しい棚田の写真は通潤酒造の広報の菊池さんが先日SNSにアップされていたので、それで十分ではあるのですが生で見るとまた一味違います(まあ、場所も違うので当然ですが)。実は山都町は3つの地域が合併して出来たため非常に広く、山都町に入ってからも通潤酒造がある旧矢部町までは結構走ります。熊本駅から車で1時間15分ほどで通潤酒造へ到着です。非常に順調なドライブで、それほど長くは感じませんでした。

ここからは通潤酒造の営業でいつもお世話になっている山下愛子さん(以降、愛子さん)の車に乗せていただいて、「雲雀(ひばり)」という純米酒用の華錦を栽培されている山都町の農家、山下さん(以降、山下さん)の圃場へ連れて行っていただきました(ご親戚というわけではなく、この地域は山下さんが多いとのこと)。「雲雀」は、通常、田植えと稲刈りをイベントにして、参加してくれる多くの通潤ファンの方々と一緒に行い、その米で醸します。そのため、量が多くないことから蔵でも通信販売では販売しておらず、現地でしか買えない、まさに現地の地酒と呼べるものです。この雲雀イベントはほとんど町外の方々が参加されており、熊本だけでなく、九州の他の地域から来られる方もおられるとか。
山下さんの圃場も棚田で、華錦のところは刈り取り済でしたが、食米のヒノヒカリはまだ綺麗な稲穂の稲刈り前でした。
山下さんは他の圃場で作業中のところ、軽トラックで駆けつけてくれました。

「華錦というのは他と違う特徴があるのですか」
「思っていたよりも早生だね。田植えの時に普通より広い30cm間隔で植えて、8月に水抜きをしたからしっかり育ったけど実りが早かった」
そうなんです、華錦はまだ新しい酒米で、今年が初めての栽培や2年目の栽培という農家さんが多く、皆さん結構手探りで工夫されているのでした。そのため稲刈り時期が想定よりも早くなりイベントの準備が間に合わず今年は雲雀用稲刈りイベントは中止になったのでした。
「来年は9月末にはやれるようにイベント準備しとかんとね」
今年の稲刈りイベントが出来なかったことが残念だったという事で、山下さんから愛子さんへリクエストが出ていました。

雲雀の圃場。右は30cm間隔の稲の刈り取られた跡。

「山都町は有機栽培農家が多いんよ」
山下さんからそう伺ったので調べてみると、山都町は、九州で最も有機栽培農家(米だけではありません)の数が多いと言われる地域で、NPO熊本県有機農業研究会の熊本県内アンケート調査(※1)では、有機栽培農家の数が2位の南阿蘇村の43軒を大きく引き離す128軒でTOPだったのです。1970年代から40年以上の有機栽培の歴史があります。山名酒造がある兵庫県丹波の市島地区と同じくらいの有機栽培の歴史があるのですね。もしかしてと思って調べてみたら、丹波と同じく農林水産省の有機栽培モデルにも選ばれていました(※2)。全国有数の有機栽培地区です。山下さんの圃場でも華錦だけではなく、他の食米のところも基本的には有機栽培ということでした。
「田舎やから自然が良くないと都会の人も来てくれんしね」
山下さんは笑いながらそう仰っていましたが、町全体で無農薬を推進し、環境を守った農業を進めていければそれは重要な「資源」になると感じます。そうなれば水も綺麗に保たれて、お酒も一層美味しくなるのではと期待してしまいます。

「あそこの唐傘松は見たんかね。本当はイベントの後、あそこでみんなで山都町の米のおにぎりを食べたいんだけどなぁ」
山下さんは棚田の向こうにある丘の上の松の木を指して仰いました。とても立派な松です。樹齢は300年以上。丘の上に1本だけ立っています。そして丘の上からの景色はきっと綺麗なのだろうなと想像してしまう雰囲気を持っています。
「この後、行こうと思って」と愛子さんが答えると、「車で行けばすぐだしな」と山下さんのお言葉。見送られてしまったので愛子さんはその道を丘へ向けて頑張って車を走らせてくれましたが、正直少し怖くなるほど狭い道でした。対向車が来たら終わりだなぁとひやひやしながら無事到着。
そこにはとても綺麗な景色が待っていました。
「来年は稲刈りを手伝って、ここでおにぎりを食べたいです」と宣言してしまいました。
その前に田植えイベントがあるけど、その時はおにぎりが出るのだろうか・・・
<続きとして通潤酒造の杜氏さんと社長さんとのお話があります>

左上)圃場から見える唐傘松、 右上)唐傘松近景 下3枚)唐傘松の丘から見える風景。真ん中の奥が雲雀の圃場。

※1)出典:熊本有機農業リサーチプロジェクト http://www.kumayuken.org/research-project/survey.html
※2)出典:農林水産省Webサイト http://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/y_model_town/

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