酒米の王様・山田錦の有機栽培 -兵庫県・加東市 古跡真一さん-

「古跡真一の山田錦」

古跡さんの山田錦で造られた自然酒

すぐに目がいく酒瓶の蓋からラベルにかけて伸びる紙に栽培農家さんのお名前が書かれたシリーズがあります。それが山名酒造の「自然酒シリーズ」の◯・△・□ の三種類です。その中でも一つだけ個人名が書かれたものが「古跡真一の山田錦」です。他の二つが農園名で書かれているのに対してひとつだけ個人名で書かれているのは気になります。昨年は「□土酒」の宮垣農産さんへ伺いました(詳細はコラム「五百万石の田植えを見せていただきました」「有機栽培の除草は工夫がいっぱい」 をご覧ください)が、今年は古跡さんのところへ伺うことが出来ました。

酒米の王様・山田錦栽培の中心地・加東市

古跡さんが山田錦を栽培されているのは兵庫県加東市。市町村合併が行われるまでは「社町(やしろちょう)」と呼ばれていたところです。2006年に社町と東条町と滝野町が合併して加東市が出来たのですが、社町と東条町は三木市吉川と並んで「特A地区」と呼ばれ、山田錦の名産地と言われます。

ここで少し山田錦について説明します(ご存知の方は読み飛ばしてください)。日本酒に詳しくなくても聞いたことがあるという方が多い「山田錦」は、酒造好適米(酒米)と呼ばれる日本酒造りに適したお米の代表的な品種です。もともとは兵庫県の農業試験場での品種改良により造られた品種で、山田穂(やまだほ)と短稈渡船(たんかんわたりふね)を掛け合わせて出来たものです。酒米として大切とされる、心白が大きいこと、たんぱく質が高くないこと、粒が大きいことなどの特徴を持ち、山田錦で造られた日本酒が新酒鑑評会で多く金賞を受賞するようになったことから、全国的に人気となりました。現在では各地で栽培されていますが、元が兵庫県であったこと、栽培に適した地域があったことなどから現在でも全国の生産量の約6割が兵庫県で栽培されています。山田錦は茎が長く、倒れやすいこともあり、栽培が難しいと言われます。また一日の気温差が大きく、粘土質で水はけがよい土地が適していることから、兵庫県中央部の加東市、三木市に「特A地区」と言われる高品質の山田錦が栽培される地域が指定されています。子である山田錦が有名になってしまいましたが、親である山田穂を使った日本酒も少しですがあります。短稈渡船の元である渡船や、渡船の元である雄町(渡船と雄町は同じ品種と言われています)を使った日本酒は色々あります。「山田錦の親」として比べて呑んでみるのも面白いですね。ちなみに昨年兵庫県で生まれた新しい品種である「Hyogo Sake 85」は、片親が山田錦です。心白が大きいところは引き継ぎながら、茎の丈を短くして県北部の寒冷地でも栽培しやすい極早生品種になっています(Hyogo Sake 85の日本酒はこちら「生」「火入れ」 の二種類)。

そんな山田錦栽培の中心地である社町で古跡さんが山田錦の有機栽培を始められたのには、二つの理由があったということでした。
一つは元々古跡さんの祖父が社町で稲作農家をされていて田んぼがあったこと、もう一つが古跡さんが若いころに農薬を使わない農業をしたいという思いです。神戸で暮らしていた古跡さんは無農薬の農業をしようと考えて社町の祖父のところへ行かれたのでした。私が知る限り、山田錦の有機栽培はあまり多く行われていない様に思います。やはり有機栽培ではなくても人気だからでしょうか、そもそも栽培が難しい品種だからでしょうか。理由は分かりませんが、貴重なお米だと思います。近年は酒蔵からの要望もあり、周囲にも山田錦の有機栽培をされる農家さんが増えてきているとのことでした(この地域は酒蔵と直接契約している農家が沢山あります)。

自然酒◯陽酒が生まれる

古跡さんと山名酒造さんの出会いは2011年。自然食品団体の紹介がきっかけだったと伺いました。山名酒造さんという安定した買取先が決まったことで古跡さんは栽培により力を注げることになったことでしょう。山名酒造さんは、山田錦、雄町、五百万石という代表的な酒米3種の自然酒ラインナップを手に入れたわけです。この自然食品団体は現在も自然酒◯陽酒とは別のオリジナルブランドで、古跡さんの山田錦×山名酒造の日本酒を販売されています。また、生産者と消費者の交流を大切にしており、参加者を募って生産者を訪問する活動をされており、この日本酒については1年間を通して活動する形で、田植え・稲刈り・仕込見学・ラベル作成までを体験できます。前半は古跡さんを、後半は山名酒造さんを消費者の皆さんは訪問して日本酒造りに触れるわけです。とても素晴らしい取り組みですね。酒蔵の取組みとして、仁井田本家さんや通潤酒造さんでも同様の取組みがなされていますが、販売団体が取りまとめておられるのは珍しいのではないでしょうか。先日、山田錦の田植えが見たくて、このイベントを取材させていただいたのですが、参加者の皆さんがとても楽しそうに田植えをされているのを古跡さんが嬉しそうに眺めておられるのが印象的でした。こうしたイベントを通じて消費者と生産者の距離が近いのも有機栽培・自然栽培の特徴かもしれません。

消費者の皆さんの田植えの様子

社町は、山田錦だけでなく、桃の名産地でもあります。周囲の農家さんが高齢化を理由に引退されることがあり、古跡さんは現在桃園も引き継がれています。こちらでも将来的には無農薬での桃栽培を目指して、色々と挑戦を始められている様でした。今でも最低限で栽培されているとのことです。桃園は少しずつ増えていて、とてもお忙しそうでした。
余談ですが、偶然にも私と同じ年齢でした。これからのますますのご活躍に期待したいです。

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