Facebookやinstagramで既にお伝えしてる通り、4月19日から24日までの6日間、東京・六本木ヒルズで開催された「Craft Sake Week2019」に唎酒師スタッフとして参加しました。岡酒商店の店主としては、今の東京の日本酒事情をアップデートすることと、この巨大イベントを内側から見せていただいて意図を理解することで自らのイベント運営に活かすこと、そして唎酒師仲間のつながりを広げることを目的に参加しました。
このコラムでは私が感じたこのイベントの空気感から、これからの日本酒の方向性について個人的な思いを書きたいと思います。
Craft Sake Week概要
まずはイメージしていただくためにイベントの概要をお伝えします。ご存知の方は読み飛ばしてください。
開催期間 > 2019年4月19日から4月29日(11日間!)
開催時間 > 12:00~21:00
開催場所 > 六本木ヒルズアリーナ
参加酒蔵 > 一日10蔵 毎日入れ替え 合計110蔵!
参加飲食店 > 都内高級料理店5店 2回入れ替え 合計15店!
プロデュース> 中田英寿(元サッカー日本代表)
提供酒量 > 1日約200~400本 合計3000本以上!(あくまで推定です)
入場者数 > 不明ですが、前年比120%以上
唎酒師配置数> 常時15名以上
飲み方 >
スターターキット3,500円(ガラスのグラス+コイン11枚)を購入し、お酒や料理はコインと交換。コインは追加購入が可能で、期間中はずっと有効。友人とシェアも可能。お酒はコイン2枚~。料理はコイン4枚~。最も高価なレア酒は一杯なんとコイン18枚! 平均的には日本酒1杯コイン5枚(吟醸)~8枚(大吟醸)という感じです。
特徴 >DJブース有。VIPエリア有。キットカットブース有。欧米人多数来場。
会場は最初の写真の感じです。日本酒イベント感はありません。
参加している酒蔵と飲食店
さすがに110蔵も来るので、東京で日本酒こだわっている所でよく聞く銘柄はほとんど揃っています。傾向としては少し東日本寄りです。毎日テーマ分けされていて、初日は「スパークリングの日」、27日は「Sake Competition2018の日」28日は「SAKENOMY ALL STARSの日」、29日は「チーム十四代の日」となっていて、2日目から8日目までは、地方別(「東北の日」とか「関西の日」とか)になっています。
飲食店は、高級料理店がキッチンカーで提供します。ペアリングがイベント全体のテーマだったのですが、前半はアジア料理(中国、韓国、ベトナム、タイ、シンガポール)、後半は欧州料理(スペイン、イタリア、フランス、ドイツ、日本)29日はスペシャル(日本×2、フランス、イタリア、スペイン)となっていました。なかなか普段食べられない様なお店の料理を一皿だけ食べられるというのは楽しいですね。ただ、私がいた前半のアジア料理はパクチーをはじめ、スパイスペアリングに悩まされました。その分、発見も多かったです!
具体的な酒蔵や料理店に興味がある方はイベントのサイトをご覧ください。
なかでも一番の発見は「キャビア」です!
そもそも初めて食べたので、どれでも大丈夫なのかは分かりませんが、出展されていた「キャビアハウス&プルニエ」のキャビアと味がしっかりしている吟醸系の日本酒とのペアリングはとても美味しかったです。
「そんなの知ってる~」という人、「キャビアなんて・・・」という人、いろいろな方がおられると思います。
私は「キャビアなんて・・・」という考えでした。でも美味しいものは美味しいので、仕方がありません(笑)。
機会がありましたら今後の神戸のイベントでも出してみたいですね。
イベントの空気感
正直なところ一番の違和感は、酒好きの集まりとは言い切れないところです。私は担当蔵の酒瓶を持って会場を回遊しながら販売していました。「美味しいね!」という声は至る所から聞こえてきますし、皆さん楽しそうに飲んでいます。そう言う意味ではとても良い雰囲気です。DJブースからの音楽もいいリズムで、会場は若い人が沢山来ていました。しかし回遊しながらお酒を勧めると、多くの方は「どこのお酒か」ということに興味を示す程度です。コインの枚数しか気にしない方も沢山いました。そしてそれすら気にしない人も・・・。そのお酒の持つストーリーや料理との相性について聞いていただける方は本当に僅かでした。参加していた多くの唎酒師が担当蔵について勉強してきたり、蔵元さんに色々と質問したり、事前に料理との相性を確かめたりして準備していたのにとても残念でした。提供していたお酒の多くは純米吟醸酒、純米大吟醸酒、大吟醸酒です。中にはとても貴重なお酒もありました(例えば、すでに亡くなられている能登四天王の波瀬正吉さんご存命の時のお酒=18年熟成酒)。
最初は「もったいない」と思いました。でも違うということに気が付きました。日本酒が特別好きという訳ではない人でも飲んでみたら「美味しい」と思えるお酒を提供することで、「日本酒は美味しいんだ」という感覚を広げていくことが狙いなんだなと。そのために日本酒好きが見ても「いいな」というお酒を本気で揃えているんだなと(さすがに日本酒好きでないと喜ばないお酒はちょっと置いておかれていますが)。それをおしゃれな雰囲気の場所で音楽を聴きながらグラスで飲んで楽しむ。この主催者の意図を参加されている酒蔵が皆さん理解していたら、どんどん良いイベントになっていくのだろうなと感じました。
「日本酒の良さを分かってもらう」ということを考えた時に、「日本酒は難しい」と言われたら丁寧に教えようとしてしまう自分がいます。でも「難しいことは考えなくて美味しいかどうか呑んでみてよ」というスタンスも必要ですよね。頭ではわかっていましたが、それを強く体感しました。そして、普段ワインやカクテルを飲んでいる方からすると、大吟醸クラスの価格は全く高くないんだということも分かりました。ワインと比べて日本酒は安いと言われますが、実際にワインを飲むような店の料理と合わせて提供することで、抵抗なく飲まれる。もちろん「高い」という方もおられましたが少数派だと感じました。これは六本木という場所だからかもしれません。
これからの日本酒の方向性
日本酒のことが色々と分かってくると、今まで以上に美味しく感じることも事実です。そのお酒の持つストーリーを知ってもらいたいという思いは強くあります。ただ、それを押し付けていては離れていくだけなのかなと。自分としては出来る限り分かりやすい言葉を並べたつもりの岡酒商店のサイトでも「マニアック」といわれることがあるのはそう言うことなのかなと。
お酒のことを消費者に伝える我々はもちろんですが、今まで以上に酒蔵での酒質の設計段階で「ターゲット」をどう設定するかが重要になってくるのではないでしょうか。そして、それが想定通りの状態で提供される販路に乗せることを考える酒蔵が残っていくのでしょう。私の立場としては、酒蔵にも消費者にも選ばれる「理解ある酒屋」であることを強く発信しつつ、私として提供したい日本酒を探していくこともより一層重要になると感じました。それが自然派純米酒というポリシーに合致した酒であることは間違いなく、これからもそのお酒や酒蔵、栽培農家さんの持つストーリーを皆さんと共に楽しんでいきたいと思いますが、時には蘊蓄は置いておいて「まずは飲んでみて!」というアプローチを織り交ぜていきたいと思います。
行きつくところは「美味しく」「楽しい」であることを考えると、「まずは飲んでみて!」が先に来るべきなのかな? とも思ったりしました。皆さんはいかがでしょうか。